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山口家庭裁判所徳山支部 昭和63年(家)613号 審判

申立人 アラン・サーモンド 外1名

事件本人 津山秋子 外1名

主文

事件本人津山秋子を申立人アラン・サーモンドと同内藤玲子の特別養子とする。

理由

第1申立の要旨

本件申立は、申立人両名には子供がないので、山口県徳山児童相談所のあっせんにより、昭和63年10月29日事件本人津山秋子(以下「秋子」という。)を引き取り養育を続けているが、秋子の将来のために特別養子縁組をして実子として育てたいというものである。

第2当裁判所の判断

1  本件記録及び家庭裁判所の調査官作成の調査報告書によれば、次の事実を認めることができる。

(1)  申立人アラン・サーモンド(以下「申立人アラン」という。)は米国籍を有する45歳の男性である。申立人アランは、米国イリノイ州ポツタウンにて出生し、昭和38年イリノイ州立大学を卒業後、米国国防総省に事務官として就職し、昭和53年勤務地のワシントン州で申立人内藤玲子(以下「申立人玲子」という。)と知り合い同年10月10日バージニア州で結婚した。

申立人玲子は38歳の日本人女性で、徳山市にて出生し、昭和47年短大卒業後、徳山市役所などに勤務し、昭和51年渡米してジョージ・ワシントン大学に留学中申立人アランと知り合い結婚した。

申立人両名は、結婚後申立人アランの転勤に伴いカリフォルニア州、バージニア州に居住していたが、昭和59年3月申立人アランは国防総省を退職して同年4月夫婦で来日した。申立人両名は来日してから新南陽市に居住(昭和60年に現住家屋を新築)して英語塾を経営するかたわら、申立人アランは昭和62年4月から新南陽市教育委員会の非常勤講師として同市内の各中学校で英語の指導にあたっている。

(2)  申立人両名は、子供に恵まれなかったが、両名共子供を育てることを強く希望していたところ、里親制度のあることを知り、昭和63年10月1日徳山児童相談所に里親登録をして、同相談所のあっせんにより、昭和63年10月29日下関市所在の中部少年学院に在院中の秋子を引き取りその養育を始め、同年11月2日正式に里親委託決定を受けて、今日まで養育を続けている。

(3)  申立人両名は共に健康で、円満な家庭生活を送っており、経済的にも安定している。申立人両名は、秋子を国際人として自立した人間に育てるという方針の下に非常な熱意と愛情をもって養育にあたっており、秋子は申立人両名のもとで心身共に順調に成長している。

申立人両名は、今後も日本での生活を続けるつもりであるが、申立人アランが高齢になった際には米国に帰国する予定である。

(4)  秋子の実母である事件本人津山美雪(以下「実母」という。)は未婚であり、昭和58年11月ころから某男性との間に出生した長男(昭和57年1月9日生)と二人で現住居である町営住宅で生活しているが、近所に住む妻子ある山根某に半ば強引に性関係を持たれて秋子を懐妊し、昭和61年3月27日秋子を出産した。実母は秋子を手元で育てることを希望していたが、長男を育てることも十分にできない状態であったため、周囲の勧めもあって、昭和61年4月3日中部少年学院乳児部に秋子を委託した。その後実母は、将来は秋子を引き取りたいと考えていたので、面会にも2~3度行ったが、秋子が2歳になったころから育てる自信をなくしてその引取りにつき迷いはじめ、考え抜いた末、秋子の幸せのために、秋子を里子か養子に出すことを決意するに至り、児童相談所のあっせんにより秋子を申立人両名に里子として委託することに同意した。実母は現在生活保護を受け内職をしながら長男を育てているが、極めて苦しい生活状態にあり、秋子が申立人両名に可愛がってもらい順調に成長していることから、このまま申立人両名に戸籍上も実子として育ててもらった方が秋子の幸せになるとして、秋子を申立人両名の特別養子とすることに同意している。

なお、秋子の実父である山根某は、秋子を認知しないばかりか実母を避けており、今後も秋子を認知し、その養育にあたることは全く期待できない。

2  本件は、渉外事件であるが、本件においては申立人両名及び事件本人秋子がいずれも新南陽市に住所を有するものであるから、我が国に裁判管轄権があり、当裁判所の管轄に属するものということができる。

次に、本件に関する準拠法は、法例19条1項により各当事者の本国法によることになるから、申立人アランについてはアメリカ合衆国イリノイ州法が、申立人玲子及び事件本人秋子については我が国の民法が適用され、各法の定める要件を具備することを要するものであるが、養親側養子側双方の要件と解される特別養子縁組の許容性については、イリノイ州養子縁組及び廃止法律の指定に関する法律(以下「イリノイ州養子縁組法」という。)によれば、養子縁組判決の効果として、実親との関係を断絶するものと定められているので、本件特別養子縁組を成立させることが可能である。

そして、養親側の要件である養親となる者の年齢限定及び夫婦共同縁組の必要性について、申立人両名は我が国の民法、イリノイ州養子縁組法の各要件を充足しており、また、養子側の要件である養子となる者の年齢限定及び父母の同意についても、事件本人秋子につき問題はなく、前記のとおり実母の同意(父は認知をしていないのでその同意は不要)がある。さらに、特別養子縁組の必要性については、前記認定の事情からすれば要保護性のあることが明らかであり、また、試験養育期間の必要性についても、申立人両名は昭和63年10月29日から事件本人秋子の監護養育を続けており、その養育状況について、家庭裁判所調査官による調査及び裁判所の嘱託に基づく児童相談所の調査を経ているので、上記各法の要件を満たしているものといえる。

3  以上のとおり、本件は、特別養子縁組を成立させるについて必要な要件に欠けるところはなく、上記認定事実によれば、実母による秋子の監護養育は今後とも著しく困難であることが明らかであって、本件特別養子縁組を成立させることが事件本人秋子の健全な育成と福祉の増進のために特に必要であることが認められる。

よって、本件申立を相当と認め、主文のとおり審判する。

(家事審判官 森下康弘)

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